山田和義の数珠の話
私達は天然の素材を加工して念珠を製作しますが、天然の素材こそ御仏を敬い拝する最高の商材であると、先代より教えられ伝統を守っています。色々ある素材の特徴を知り、加工し念珠にふさわしい製品に作りあげ、そして各宗派に合わせた房を調整し念珠と成ります。
少し前の事に成りますが、中国漁船が大挙して「赤珊瑚」採集を目的として小笠原列島付近に集まった事件(2014年)がございましたが、この時に密漁されたのが「赤珊瑚」です。
この時期を境にして偽物の「赤珊瑚」が大変多く出回るようになりました。口上は「20〜30年前に仕入れた珊瑚です」「安くしておきます」が売り文句なのですが、製品は「赤珊瑚」とは似ても似つかぬものです。アカに間違いはありませんが、「海竹(うみたけ)」と呼ばれる海洋性植物で、「山珊瑚」とも言い、古くはチベットやヒマラヤの地から産出されるもので、早い話が珊瑚の化石です。この商材を赤く染めたものです。
「山田さんでも血赤無いんか!」「こないだ2連買った」と云われます。お値段を申し上げると「高すぎる!」と云われますが、何に対して高いのか安いのかわかりません。この様なことがないように最低の商品知識も必要でしょう。
《珊瑚について》
「珊瑚」は有史上最も古い宝石の一つと言われてますが、珊瑚は大別すると「宝石珊瑚」と「造礁珊瑚」に分かれます。
「宝石珊瑚」は八放珊瑚(はっぽうさんご・八射サンゴ)と呼ばれ、硬質で太陽光の届かない深海(1千㍍の場合も)に生息しています。その深さにより色合いも変わります。ダイビングの光景でよく見られる珊瑚群は六放珊瑚(ろっぽうさんご)と言い軟体で浅瀬に生息し製品には成りません。
念珠に使われる珊瑚は大きく分類すると7種類に分類できます。
(1)高額な「血赤珊瑚(ブラッドコーラル)」は日本近海の比較的浅瀬で採取されるものです。十九世紀に土佐湾で発見され「トサ」の代名詞で呼ばれています。
(2)「古渡珊瑚」は地中海珊瑚とも呼ばれます。古くはシルクロードを通って渡来したので「胡渡(こわたり)」と呼ばれています。
(3)「桃珊瑚」は高知沖のものが有名です。その中でガーネと云われるものはムラの無い深いピンク一色の絶品です。
(4)「深海珊瑚」はミッドウエー諸島沖で昭和30年代に見つかった新種とされています。白とピンクのまだらの珊瑚です。
(5)「紅珊瑚」は薄いピンク色した珊瑚で日本近海の深い海で採取されます。
(6)同じ海域で採取される「白珊瑚」があります。学術名の「コラリウム・コーノジョイ」は土佐沖で珊瑚採取網を考案した戎屋幸之丞(えびすや・こうのじょう)の名前に由来するものです。
(7)「黒珊瑚」はハワイ海域の温かい海洋で採取されます。「海松」とも呼ばれます。
以上代表的な7種ですが、それぞれに濃淡がありますので、色だけで判別すると製品は無限大に広がります。また珊瑚は世界重量基準が「匁(もんめ)」です。
特に気を付けないといけないものに高価な珊瑚でも色が浅く、安価な珊瑚でも色合いが濃い場合があり、この識別は私達でも分かりにくいものです。特に最近のように樹脂コーティングをされてしまうと全く分からなくなります。
珊瑚をお求めの時は必ず産地をお確かめください!海外品は殆どと云ってよいほどコーティング加工されたものが多いです。貴石・宝石の類もコーテイングが施されるようになりましたが、この加工は珊瑚から始まったと言ってよいでしょう。
先ず、最も警戒すべき事項は高騰し高額になった「血赤珊瑚」「胡渡」の類です。本来価格より大幅に安い製品は「海竹」を染めた偽物である可能性が高く、特に珊瑚の事を知らない業者が介して販売いたしますので要注意です。価格についてはお問合せ下さい。
弊社で取扱っております「磯華珊瑚(いそばなさんご)」は多気孔性の珊瑚で、元々はまるで軽石のような珊瑚です。本体が赤いので、赤珊瑚に変わる代用品として使うことに成りましたが、気孔の部分に珊瑚を研磨した際に出る珊瑚粉を入れた樹脂によりコーティングしての販売ですので、弊社ではランク落ちディフュージョン製品群です。
※尚、中国は自国領海で産出する「赤珊瑚」「桃色珊瑚」「白珊瑚」などを2008年よりワシントン条約附属書Ⅲに掲載しています。
2022.3.23 UP DATE