数珠の歴史
今回は『枕草子(まくらのそうし)』に登場する数珠について紹介します
(第42段)
あてなるもの
薄色に白襲(しらがさね)の汗袗(かざみ)。
雁の子。削り氷(けずりひ)のあまづらに入れて、
新しき鋺(かなまり)に入りたる。
水晶の数珠。藤の花。梅の花に雪の降りかかりたる。
いみじう美しき児の、いちごなど食ひたる。
(訳文)
上品なもの。
薄紫の衵(あこめ=肌着の上に着る内着)の上に白いかざみをかさねたの。
雁の卵。かき氷に甘いつゆをかけて新しい金属製の器に入れたの。
水晶の数珠。藤の花。梅の花に雪が降りかかっているの。
とても可愛らしい子どもがイチゴなどを食べているの。
『枕草子』の作者清少納言(966〜1025頃)は、前回の『源氏物語』の紫式部(970〜1019頃)と同時代の人です。
あてなるもの、を漢字に直すと「貴なるもの」、つまり上品で優雅なもの、ということになります。また、「貴なるもの」には身分が高いという意味もあります。
清少納言は「貴なるもの」として水晶の数珠を挙げていることは興味深いものがあります。研磨された上質な水晶はまるで氷が溶けかけたような質感で、前文のかき氷に甘いシロップをかけて真新しい金属の鋺(わん)に思ったものを上品として挙げていることと、光景の韻を踏むようなリズム感がここにはあります。
藤の花の藤色、紅白梅の雪が少し積もった仄かな色合い、そして子供の可愛い紅さす口に入る赤いイチゴが、水晶や氷の透明感に彩りを添えます。
清少納言自身は数珠を持っていたでしょうか。一条天皇の皇后である中宮定子(ちゅうぐうていし・977〜1001)に仕えるほどの人ですので、身分も高く、教養もある人でしたので、『枕草子』の中の「貴なる数珠」は自身の数珠であったかもしれません。
初夏から夏にかけて清少納言は水晶の数珠のひんやりとした手触りを楽しみながら、仏のことを思ったかもしれません。
姫 「ああ、暑い、暑い。夏はやっぱりかき氷よね」
姫 「夏は水晶の数珠のひんやりとした手触りがたまらなわ」
姫 「あなたの水晶の数珠、かき氷の氷みたいね。」
姫 「ちょっと素敵でしょ?」
姫 「私もそんな数珠を持って観音様にお詣りしたい」
姫姫「ねんじゅる ねんじゅる」(念珠る)
2021.6.20 UP DATE